No.45 コーディネーターというお仕事



 先日(2003年10月8日)、大阪府不動産鑑定士協会主催の「不動産鑑定士フォーラム 〜収益還元法におけるa、R、Yの考え方」で、パネルディスカッションのコーディネーター役を仰せつかった。 300名を超える参加者を前にしての大役だ。

 私にとっては初めての経験で、準備段階から色々と気をもんでいた。 というのも、私は、一人で講師役をすることに関しては、比較的場数を踏んでいるものの、 複数の人間をとりまとめる舵取り役の経験が、あまりないからだ。

 フォーラムの内容は、a(純収益)、R(還元利回り)、Y(割引率)を切り口にして、 収益還元法を、従来の鑑定の枠を超えて大いに語り合おうというものだが、 その詳細については、ここでは触れない。

 ここで述べたいのは、コーディネーターという仕事についてである。

 当日は、4人の気鋭の鑑定士を東京から招聘し、それぞれの得意分野について 講演してもらったのだが、パネルディスカッションでの私の役割は、 各氏からいかに意見を引き出し、会を円滑に進行させるかというところにある。

 調整役というのは、どんな集団にも必要なものだが、 そもそも私は、そういったことが得意でないから、自由業の世界に入ってきたという類の人間だ。 調整役が務まるかどうか、大いに不安があった。

 我々不動産鑑定士の業界自体も、制度改革を控えて、業容の新たな展開が期待されている。 従来型の鑑定評価だけでなく、周辺業務としてのコンサルティング業務を拡充すべしと言われている。

 コンサルティングとは、人に対する助言であるから、当然、相手の立場を斟酌した上での コミットメントとなる。これからは、独占業務としての鑑定評価だけでは競争激化により生き残りは厳しく、 いかにこの周辺業務を拡充するかがキーポイントとなると言われているが、 正直言って私は、他者への積極的介入という仕事が苦手である。

 苦手と言うだけでなく、そういう分野で勝負しようとすら思っていないというのが、本音である。 人は人。各人がどんな選択をしようが、それを承認し合うのが本来の人間同士のあり方であり、 助言とか進言などおこがましいと思ってしまう。

 そんな、コーディネーターという役割にふさわしくない私に、 はたしてどれだけのことがフォーラムでできたのかは分からない。 しかし、終わった後に、複数の方から「おもしろかったよ」と言っていただいたのには救われた。 「おもしろい」は、私にとって最高の褒め言葉だからだ。

 「ためになった」とか、「勉強になった」と言われても意味がない。 研修会が「ためになる」のは、当然のことであるはずだが、世の中には、 「ためになる」ことだけに必死になっている研修会や勉強会が多すぎる。

 いかに眠くならずに、おもしろく、しかも何かを感じ取って帰っていただくか。 会の主催者は、そこにこそ全力を上げるべきだ。 私は最初から、そこに照準を合わせて、おもしろい研修会を目指していた。 もう少し笑いを取りたかった、という反省もあるのだが(※注)。

 そしてなんと、今度はまた別のシンポジウムへのお誘いを受けている。 私なんかで本当に良いのだろうか、という気持ちは拭いきれないが、 取りまとめ役も悪くはないな、とも思い始めている。 こんな独演家の、はちゃめちゃコーディネートをおもしろがってくださる のは本当にありがたい。

 これからも、デストロイヤー(破壊者)に徹します。

2003年10月18日


※注:今回、好き勝手な進行を許してくださった主催者、大阪府不動産鑑定士協会・松永明研修委員長に、 この場を借りてお礼申し上げます。また、おつき合いくださった各氏 (奥田かつ枝氏、村上直樹氏、山下誠之氏、小林秀二氏)には、心から感謝申し上げます。