No.24 利用者の視点



 長引く景気低迷を反映して、どの業界も元気がない。そんな中で、着実に業績を伸ばしている企業もある。

 盛業と低迷。その間にあるものは何か。特に小売業などに関して言えば、筆者が考えるに、 それは「利用者の視点」に立っているかどうか、という点に尽きると思う。

 この時代、ただ値段が安いというだけで、消費者側に立った工夫であるとも言える。実際、大幅コストダウンに尽力した結果、 販売価格を下げ、それで売上を伸ばしている企業がある。 それももちろん「利用者の視点」の一形態ではあるが、ただ安いだけでは、早晩ダメになるだろう。

 それでは、本当の意味での「利用者の視点」とは何だろう。そんなに構えて考えることはない。 ごくシンプルに、自分がお金を出して買う側だったら、ということを常に考えて行動することである。

 景気低迷が長引くことによって、こんな基本的で当たり前のことにようやく気づいたのだと言っても良い。 そのくらい日本の企業は、長らく自分たちの成長だけを考えてひとりよがりに行動してきたということだ。

 徹底的に合理性を追求するのなら、目を見張るほどの安値に挑戦すべきである。 それを実現したのがマクドナルドであり、ユニクロであり、吉野家だ。これも一つの形態 (筆者はこの形態はあまり好きではないが)である。

 こんな時期だからこそ、本当に納得の行くクオリティのものを、適正価格で提供して欲しい。 安かろう悪かろうは、もううんざりだ。もっと利用者の喜びという観点から商品企画をして欲しい。 小売業や製造業を問わず、すべての業界に望みたい。

 筆者の職業も、言ってみればサービス業だが、 もっと利用者の視点に立った発想が必要ではないか、と最近よく思っている (もちろん、安易に依頼者の希望する鑑定額を出すなどということでは断じてない)。


 さて、最近「利用者の視点」が最もなおざりにされていると思うものがある。「マイライン」である。 そもそもマイラインが導入されたのは、NTTに対抗する新電電各社が、 自分たちの会社を選んでもらう時だけ電話番号の頭に会社識別番号(00**)を付けなくてはならないというのは、 いかにも不公平だ、という不満に端を発している。 つまり、マイラインとは、利用者のためではなく、電話会社のためのものなのだ。

 「電話会社をあなたが選ぶサービスです」とか、「もう頭に00いくつを付けなくてもいいんです」 なんていう宣伝文句を聞くたび、よくも白々しくそんなことが言えたものだ、と呆れてしまう。 頭に00いくつを付けなくてもよいように、LCRが開発されたんじゃなかったのか。

 確かに電話会社間の公平な競争を促すことによって、結果的に利用者の利益につながるものだとは思う。 その点は筆者も認める。しかし、マイラインの制度自体が分かりにくい上に、各社自分の都合の良いようにしか説明してくれないので、 利用者としては混乱するばかりである。今月(2001年10月)末までに登録しないと、後は登録料がかかるというのも、 まったく利用者をバカにしている。結局NTTが先導していることに、マイラインの不透明さがあるとも言える。

(注:筆者は個人的にNTTに恨みがあるわけでもなく、嫌いなわけでもない。いつもお世話になっている。 だが、マイラインに関しては、どうも公平さが保たれていないような気がするのだ)

 産業の健全な育成という、20世紀の遺物のような思想に立脚しているマイライン。 我々利用者は、サービス提供側の利己的な宣伝に惑わされず、自分のニーズにあった会社を選びたいものである。

2001年10月15日


 電話会社固定サービスと銘打たれている「マイライン・プラス」を指定すると、 割引率アップなどのサービスを用意している会社も多い。「固定」と言ってはいるが、実はあれもマヤカシで、 マイライン・プラスに登録したとしても、頭にサービス解除番号を付ければ他社も利用できるので、 上手く利用すれば大きな節約も可能である。